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公開日:2020年2月29日
更新日:2020年3月1日
起業をするには法人の登記が必要になる。日本ではこれが非常に煩雑で手間がかかることが知られている。一方、世界でも先進的なIT立国であるエストニアは、電子政府というシステムを採用している。筆者は、直近で日本とエストニアの両方で法人登記を経験した。これにより見えてきたものがある。ここにまとめておきたい。なお正確な最新情報は公式ページなどから参照いただきたい。
エストニア電子政府
エストニアは、e-estoniaと呼ばれる電子政府というシステムを敷いており、外国人でもe-residencyという電子国籍を取得することが出来る。電子国籍の最大のメリットはEU圏内のエストニアに法人を登記することが出来る点である。仕組みに興味があったことと、業界上の都合で、今後は国籍に縛られないほうが有利な状況であることを考慮しエストニアに法人を登記した。エストニア電子法人については、他の記事を参照いただいたい。なおエストニアの電子法人で法人を登記するためには、エストニア電子法人が必要である。これもインターネットで申し込める。受け取りはエストニア大使館へ出向く必要がある。実際他にも電子法人を敷いている国はシンガポールなど他にも進出している国がいくつかある。
法人登記
様々な法人形式があり、この点は日本とエストニアで共通している。値段の数値は株式会社の場合で比較する。
日本
日本での法人登記は、知っての通り大変面倒なプロセスを行う。定款を公証役場に承認してもらう。行政書士にやってもらうと、すぐ通るが、自分でやるといちいち削られるらしい。
何十万円か払って代行するか、この煩雑なプロセスを自分で行う必要がある。だいぶ煩雑なプロセス。なんともドラゴンクエストのような感じがしたので、法人クエストとしてまとめた。
【一般社団法人化】「法人クエスト」 第2章 ~証明書・謄本~
ほぼすべてのプロセスに紙と印鑑、さらに印鑑証明書が絡む。このプロセスが煩雑で結構値段がするために「起業するのすごい!」となっている側面もあるだろう。最凶アイテム、印鑑と印鑑証明書。これほど手ごわいものは無い。
エストニア
一方エストニアの電子法人、電子というだけあってインターネットで行う。紙面はない。電子国籍を取得した際のカードリーダーとカードで、唯一の紙は暗証番号が載っているもの位である。法人の登記申請は、一定の条件を満たせば、全てインターネットで完結する。エストニアに出向く必要はない。さらに定款もほぼ穴埋め式で標準形があり、代理人や公証役場もない。これも出向く必要はない。
エストニアの首都タリンの旧市街は、まさにドラクエのような景色の地域である。
しかし、日本の法人クエストのような「いや、村人Aさん、先に行ってくださいよ、引き返さないといけないじゃないですか。」のような印鑑スタンプラリーを行う必要はない。
e-Interpol e-インターポール(世界警察)とエストニア電子国籍の取得について【エイプリルフール】
費用
法人の設立には様々な費用が掛かる。なお細かい話は公式サイトを確認いただきたい。
法人登記
まず登記をしなければならないが、その費用もかなり差がある。
日本
日本で株式会社を設立する場合には以下の費用が掛かる。
定款の認証手数料:50,000円
定款の謄本手数料:2,000円
設立にかかる登録免許税:150,000円
このほかに
新しく設立する会社の実印作成代:約5,000円程度〜
設立時に必要な個人の印鑑証明取得費:約300円×必要枚数
新しい会社の登記簿謄本の発行費:約500円×必要枚数
代行を依頼し法定費用とあわせると約260,000円〜300,000円https://www.venture-support.biz/media/establishment/7386.html
要するに法人の登記に代行も利用すると、日本での株式会社の設立には30万円かかる。
エストニア
一方エストニアの電子政府を利用した法人登記は以下のようになる。
電子国籍の取得 100ユーロ(12000円)/3年間
法人設立 318ユーロ(38000円)
バーチャルオフィス住所 240ユーロ(28000円)/1年間
エストニアの法定代理人 108ユーロ(12000円)/1年間
銀行口座108ユーロ(12000円)/1年間 9/ユーロ/1月
これで大体10万円である。エストニアに住所が無い場合、オフィスと法定代理人の弁護士と契約する必要がある。これが高い!のかと思いきや、オフィスの登録費と代理人登録費で年間200ユーロ程度(4万円ちょっと)である。資本金は2500ユーロだが、10年間振込延期が出来る。
費用をひたすら書くのが目的ではないので省略するが、国が異なれば税制も異なる。特にエストニアは法人住民税は非課税で、配当を出さない間は内部留保も非課税のため、特に小規模な企業にはいいのではないだろうか。詳しくは以下の記事などを比較いただきたい。
~税金・会計・配当~ エストニアのビジネス制度徹底解説【e-Residency How-To Guide #4】
手続き
さて皆さん、実質この章が本番である。日本では、理事や定款その他に変更を加える際、印鑑と印鑑証明書含め、原本が必要となり該当の役所まで出向く必要がある。日本特有のプレミアアイテム、印鑑と印鑑証明書が道を阻む。
さらに印鑑は有料。印鑑証明書の発行も有料。印紙売りさばき所は自動販売機ではなく、熟練のおばさんが、電卓でもなくそろばんで値段を計算している。そろばんを知らない方へ。そろばんはこういう道具である。計算に使う。
エストニアの電子法人。インターネットで完結する。これは定款変更や役員変更でも同様である。電子署名は電子国籍を受け取った際のカードとカードリーダーで完結する。印鑑は無い。印鑑が無ければ同様に印鑑証明書もない。No Stampである。印紙もない。ネットで支払える。そもそも全体的に紙が無い。
日本は基本的に原本をもって出向く必要がある。災害や伝染病になると猶更である。一方、電子政府制度を使っていれば新型コロナウィルスが流行ろうが、パンデミックだろうが何だろうが、インターネットで更新が出来れば影響はほぼない。電子法人でインターネットで完結する業務であればなおさらである。
印鑑、印鑑証明書。法務局。「1番の窓口ではありません。3番窓口へ~」。土日祝日はお休みです。そんなに嫌がらせしなくてもいいじゃないか!そんなに来てほしくないのか。そんなに来てほしくないのか!?
筆者は日本在住の日本人であるが、エストニア法人よりも日本法人の方がやたら遠い。
今後さらにリモートワーク・テレワークが発展し、国や場所を選ばない業務や形態産業が発展すれば、「流出というよりもむしろ追い出している?」と感じざるを得ない日本の就職活動のように、法人登記も日本から出ていってしまう可能性が高いのではないか、と感じるほどである。
よく「海外への人材流出が止まらない」というが、「流出」には、まだ「せき止めようとしているが、出て行ってしまっている」というニュアンスを感じる。しかしながら、上記の状況を考えると積極的に「追い出して」いないだろうか?