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公開日:2017年7月12日
更新日:2021年3月11日
とある国際会議に参加したときの話です。
国際会議では立食が多く、いろんな話題をざっくばらんに話す機会が多々あります。
その際、他の国の学生と、各国の大学院事情について話す機会がありました。
その際に日本の大学院の待遇についても話題に上がりました。
ちょっとそのことをまとめたいと思います。
なお会話は、表現は違えど、内容は大体はこのままです。
日本の大学院の待遇は、奴隷や、生活保護や刑務所の懲役未満という結論に至った話
他国の事情
国によってさまざまなので一概には言いにくいですが、ヨーロッパやアメリカなどでは、大学院生は雇用されることが多く、学費を自腹で払っている人はなかなかいない、むしろ自腹切手まで行くまでもないという考えの人が多い、というのが現状です。
コースワーク(授業)が中心の修士課程はまだ雇われる感じではない国も多いようですが、研究中心の博士課程は雇用されています。
仮に払ったとしても、フランスやドイツの大学は学費は無料か数万円程度。
確か任期が切れたら失業保険が適用される国もあります。詳しくは各自検索ください。
ドイツの大学にも一時期滞在していたので雰囲気も分かります。
スウェーデン(ノルウェーだったかも)の大学院、特に博士課程では、家賃手当などもあるそうです。
物価などもありますが、スイスでは大学院生の最低給料が約500万円、ポスドクの給料が1000万円程度であることは結構知られています。
金額はドイツ、フランスで学振程度、スイスでは年間47040CHF(1年目、日本円で530万程度)です。これらの給料で、授業料(スイスで年間9万円程度、ドイツでもほぼ同等の金額)や税金などを含めた生活費をまかなえ、プラス、ヨーロッパ生活も十分に満喫できます。
ちょっと検索してみました。いろいろあります。
「ノルウェーは学費が無料」。日本人からすると考えられないことなので、すぐに信じてもらえない時があるのですが、これは本当です。
また、日本では知られていないことですが、一定の条件をクリアすると、留学生も返還無用の奨学金をもらえます。私は大学院進学にあたり、約100万円支給されていました。
学費無料のノルウェー+留学生にも返還不要の奨学金100万円を支給
アメリカ人によく、「日本とドイツとアメリカと、どこがいい?」と聞かれる。私は迷わず「ドイツ!ドイツ最高!」と言う。
何が最高って、あのヨーロッパ的ゆったりとした雰囲気だ。彼らは人生を楽しんでいる。休暇は30歳以下で27日もある。この27日というのは、土日祝日 を含めない数だ。
これに対して、日本の大学、特に大学院では、研究室で研究活動をするのに学費を払う必要があり、かつ、無給であるという話をしました。
大体反応は“Oh my god”, “Crazy!”
ただ私も、ここまでは前から知っていました。
さて、本題はここからです。
議論は続きます。ここからは、主に日本の大学院の待遇に関するものです。
質問1「学費いくら?」
外国人さん「でも、学費払うっていったって、日本って先進国だから、学費安いんじゃないの?100ドルとか?」
いや、それが下手したら、2桁くらい違うと思いますよ。100万円弱?
「え!?」
質問2「そもそも、それどうやって生活するの?」
欧米では、「大学院生≒社会人」という認識が強いため、このような質問が出ます。
私の知る限りでは、日本の大学院生は、事業仕分けの対象ともなった、大学院生の生活保護と言われた、学振などを除くと、親の支援か奨学金でしょう。
日本で奨学金と主に学生ローンを指します。要は借金なので、返済が必要です。
外国人さんたちの困惑した顔。
質問3「卒業後の待遇は?」
「借金してまで行くだなんて、博士号を取得したらよっぽど就職がいいに違いない。待遇いいの?」
と思われたようです。
いや、就職も少なくなる。
「高学歴ワーキングプア」という言葉がよく使われるように、博士の就職は依然として厳しい状況が続いています。
段々、「ウミガメのスープ」に代表される、水平思考ゲームのようになっていく。
【水平思考】質問から真相を導く推理ゲーム『ウミガメのスープ』
質問3「他の国の博士じゃダメなの?」
「だったら、日本で就職したりするには、日本じゃないとダメなんじゃない?だから日本人は海外で見かけないんだよ」
私が知る限りでは、日本の学位じゃないとダメ、というのはきいたことがありません。
「だったら、海外でもよくない?」
これは、私に聞かれても困るのですが、日本の大学の人たちは各自事情があるんでしょう。
現に、私は海外のほうがよさそうなので、海外大に進学しています。
さてさて、ここまでなら、まだほかの国との比較になります。
ただ、物性物理学の学会であったため、参加者は大半が物理学専攻の人たち。
いろいろ考えてしまうようです。
続きを見ていきましょう。ちょっと戦闘風に。3本勝負!
https://www.youtube.com/watch?v=7DuUT15c8SE
日本の大学院生(博士課程) vs 生活保護
外国人「そんな待遇なら、生活保護のホームレスの人たちのほうが、公園などで優雅に暮らしているよ。」
いや、確かに言われてみればそうなんですよね。
少し検索したら、こんなものがありました。
「日本学術振興会 特別研究員」という制度と、生活保護を比較されています。
なんで僕が「13万円」と言ったかというと、これが生活保護費に相当することを知っていたから。ここで、生活保護受給額の計算方法について押さえておこう。
ここで、「学振」の話に。学振ってのは、「日本学術振興会 特別研究員」の略称で、大学院博士課程学生や博士号を取った若手研究者に対してお給料と研究費を支給する制度のこと。このお金の出所は税金であり、いくら出るかは国の予算次第だ。
ここで、この「特別研究員」というのは、私が知る限り、定員割れのザル選考ではありません。実際に検索すると大体5倍になっています。
上記のリンクを参考にすると、この特別研究員の選考に通った時点で、生活保護と議論するレベルなのですから、何もなしでは生活保護に軍配が上がります。
日本の大学院生(博士課程) vs 古代ローマの奴隷
これは、最近読んだものを追加しました。
ローマ人は、よく働いた奴隷には特別に服や食べ物などを与えていた。現代の「賃金奴隷」のインセンティブはお金ではあるが、「原理は同じ」だとする。
奴隷には自由時間もあったほか、主人と良好な関係を築きながら真面目に10年ほど働けば、多くは解放されて自由の身となっていた。こうした長期的なインセンティブも奴隷のやる気を高めていたとしている。
古代ローマ時代の奴隷は、「ボーナス」などもあったようですね。
医師や会計士も奴隷の職業だったようですから、大学院生どころか、ブラックではない通常の企業でも、古代ローマの奴隷制度に完敗ではないでしょうか?
日本の大学院生(博士課程) vs 刑務所の懲役
外国人「刑務所でも収入プラスだよね。」
さすがに、これを聞いたときは若干衝撃と失笑を覚えました。
ちょっと見ていきましょう。
刑務所の”給与”
そもそも懲役とは、なんでしょうか?
懲役(ちょうえき)とは、自由刑のひとつであり、受刑者を刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる刑罰のことである(日本の刑法12条2項を参照)。
よって、閉じ込めてほぼ、無償で作業をさせることを懲役というようです。
刑務所で懲役刑になった場合、
※2015年版
1等工…41円90銭
2等工…33円10銭
3等工…26円70銭
4等工…22円00銭
5等工…17円70銭
6等工…15円80銭
7等工…12円20銭
8等工…9円70銭
9等工…7円40銭
10等工…5円90銭
見習い…5円10銭
【刑務所】刑務作業の時給が安すぎる
ということは、1日8時間労働だとして1か月で数千円はプラスになる計算になります。
Wikiによると平均月給は4200円だそうです。プラスです。
2008年度では1人当たり月平均約4200円となっている[7]。
これに対して、大学院生は、授業料を払って、無給で働き、家賃を払っています。
マイナスです。
刑務所の食事
さらに自由に出入りができないとはいえ、宿泊施設があり3食栄養のバランスのとれた食事がついています。
大学院生の食事第一位は白いご飯。
「おすすめの食事」で複数票を獲得したメニューをあげてくわよ。第一位!白ごはん(おにぎり含む)。
完全に無料で支給される刑務所の食事のほうがよさそうです。
しかも大学院生は自腹です。
出所・修了後
日本の大学の博士号と、前科の価値を並列に比べるのは非常に難しいと思います。
いろいろあると思いますが、分かりやすく進路先として考えることにします。
前科では、就けなくなる職があるようです。
受けた刑罰によっては就けない職業がある
一方、博士に行くと就職出来る機会が減るようです。
結論からいうと、博士に行ったら就職できないという噂は嘘です
修士課程と比較すると、修士の就職率は進学者を取り除いて計算すると、約90%です。一方で、博士の就職率は約80%で低くなっています。
上記のように、出所・卒業する時には、入所・入学する時よりも、進路先は限られる可能性が高くなるため、
出た後は、入る前よりも選択肢が制限される可能性がある
という点では似ていると言えます。
追記:懲役3年の罪
参考までに懲役3年の罪を検索してみました。
詐欺とか、住居侵入、傷害致死、殺人とかまであります。
https://hanrei.saiban.in/?q=%E6%87%B2%E5%BD%B93%E5%B9%B4
ヨーロッパだけでは?
さて、欧米というと、アメリカやヨーロッパだけ?どうせアジアの国は・・・。という意見が出そうですが、聞いた限りでは他のアジアの国、例えば、インドや、台湾、香港は雇われるそうです。
タイムリーにこんなものが流れてきました。中国もそのようです。
.@Conflictwatcher あと中国の大学院生は米と同じく給料貰えるので、日本よりも待遇は恵まれてて、それ故大学院入試は競争が厳しいと話してた。日本の院は学費払わないかんから、入試は楽だがその後の生活が大変。俺はバイトと学振で凌いだが、この二つが利用できない人は悲惨だった
— Conflictwatcher@帰国困難 (@Conflictwatcher) March 12, 2017
あれ、日本だけ?もしかしてそんな感じ?
結論
外国人「なんで進学するの?モチベーションなくない?罰ゲーム?」
ブラック企業どころか、生活保護、懲役刑と比較されても待遇がいいとは言えない日本の大学院です。
追記:懲役刑にも引けを取りそうということは、もう残りは闇金ウシジマくんに出てきたような、「タコ部屋」や、都市伝説であろう「マグロ漁船」と比較せざるを得ない感じになってきました。
関連して
最近日本の研究力や国際競争力が低下している、という記事が毎日のように出てきています。
日本の科学研究はこの10年間で失速していて、科学界のエリートとしての地位が脅かされていることが、Nature Index 2017日本版から明らかに
豊田長康2014年12月22日 02:27断定版:日本の研究力の国際競争力低下の原因とは?(国大協草案26)
若い研究者の待遇は、あまりにひどい ニュートリノ振動でノーベル物理学賞の梶田隆章氏に聞く(第2回)
おそらく、大学院生の待遇も無関係ではないでしょう。
日本の博士の就職事情
博士の就職も、諸外国ほどではないものの、日本でも徐々に変わってきてはいます。
求人の場合は、全体傾向よりも、分野や出身大学・研究室で大きく依存する。さらに案件によって様々で、個々の案件は日々変わっているので、とりあえず登録をしてメルマガを眺めるなどで、個別案件を見てみるのも有効であると思います。。
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社会人経験(シャカイジンケイケン)とは何か?定義・多角的な比較と考察
ただそれでも、一部の研究に関係するエリアだけに限定されている印象です。
終わりに
あくまで経済的な待遇のみを考えた場合であり、もちろんいろいろな事情があるのは常々承知です。
しかし他の「大学院生は労働者・社会人」という常識の国の人たちから見ると、「日本の大学院事情」、特に博士課程は不思議で不思議で仕方がない様子。
関連記事
博士が100人いる村という有名な動画にちなんで、
という記事を書きました。
再関連記事:
大学院からアカデミアを目指さずに就職をすると「裏切り者」といわれることがある傾向がありますが、このような低待遇が原因の一つと考えられます。理由を以下の記事にまとめました。