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公開日:2020年7月11日
更新日:2020年9月23日
この度留学説明会で久々に講演をの際に研究室やゼミ選びについて考察することとなった。
研究室やゼミ選び大学に関係がなくなった今、もし当時に戻れたらこう選んでいるという観点も込めて、以下のような段階的なチェックリストを考えた。
このような裏の事実を知っていたら選び方も、現在の進路も変わっていたかもしれない。(いろんな被害にもあったので正直自分では選び方に失敗したな、と思っている部分もある。)
研究や勉強は個人の努力次第の側面もあるが、環境が大きく影響するのも確かである。
しかし人生やり直しは聞かないので、このような情報はしっかりと抑えたうえで進学・所属先を見極めてほしい。
以下ゼミと研究室は同様の意味で用いる。
1一般的なゼミや研究室の説明
一般的なゼミや研究室の説明会では以下の2点を説明することだろう。
1.1 研究内容
「私たちの研究室では〇〇の影響について主に研究しています。国際学会に~」のように研究を中心に説明する。
1.2 ゼミ・研究室の雰囲気
研究室の雰囲気はどうだとか、写真を添えて説明するかもしれない。
確かにゼミや研究室に所属することだけを考えれば上記で良いかもしれない。しかし果たしてこれでいいのだろうか?ゼミや研究室は、一種労働環境のような側面がある。要するに1年から長ければ数年は在籍する企業のようなものである。仮に就職をするのであれば、上記の研究内容と雰囲気だけで所属先を選ぶ状態は会社の事業内容と雰囲気だけで選んでいるのと同等である。
就職先を選ぶときに、待遇や身につくスキルを全く気にしないで決定できるのだろうか?この視点に立つと、上記の一般的なゼミや研究室の説明会では、重要な部分が説明されていない。
では、以下本当の意味で有効なゼミ・研究室の打算的な見分け方を提案したい。
打算的で有効なゼミ・研究室の見分け方
さて本番である。一般的に大学の研究室・ゼミ説明会などでもこういう話はしないだろう。センシティブな情報だからこういうことには触れないという部分もあるだろうが、重要だからこそセンシティブと言っても過言ではない。婚活で相手のスペックを品定めするのと同様である。なんとなく話が合うからだけで、ホームレスと結婚するのは難しいのと同様である。
1. 卒業・修了率
研究内容や生活以前に、大学・大学院は卒業・修了できなければ行く意味がない。無事に出られないのであれば、何のために進学しているのかも分からなくなるではないか。大前提として重要である。「そんなの当り前じゃない?」と思った読者も多くいらっしゃることだろう。しかしこれが全然当たり前ではない。樹海かブラックホールかなんかなんじゃないか?と思われる研究室は存在する。精神を病む例も多い。
具体的にはこんな感じである。
左の矢印が研究室に入った人数。右側が卒業した人数。太さは人数を現す。
研究室Aは、たくさん入学して、きちんと卒業している。研究室Bも研究室Aのようにちゃんと卒業している。これなら問題ない。
ところが研究室Cは、他の研究室と同様に入学しているものの…?あれ?あまり卒業している人が・・・いない?どうなっている?おそらく卒業させないか、退学している。アカハラ・パワハラも大いにありうる。
機械の部品として考えれば、この「研究室C」っていう部品壊れてない?出来るなら取り替えたい。取り替えられないなら研究室Cモジュールは避けるのが最適である。元からやる気がない人が行くのか、教員が潰しているのか?何が起きているかは正直分からないが、研究室全体がヤバい感じなのは想像がつく。統計的に見ても研究室Cは避けるべきである。
就職で考えると入社して行方不明になる企業なんて就職したいだろうか?むしろ積極的に避けるだろう。同様である。
同時に卒業生の進路先等も調べておいた方がいい。それが「普通」にしていた場合の進路になる可能性が高い。
2. 研究費
大学2・3年生ではあまり実感がわかないかもしれないが、研究には金がかかる。
地獄の沙汰も金次第。研究室も金次第。金がものをいう。世の中ね顔かお金かなのよ(伝説の回文)道具や装置が無ければ何もできない。フィールドワークも出来ない。
これだけを言うと金の亡者みたいだが、そうではない。最低限行いたい研究が出来るレベルの研究費を取ってこられるような先生の研究室でないと、環境と機会が激減し、関連して経験して学べることもなくなるということである。
さらにこの研究費は一部分を除き大学から研究室やゼミに平等に配られるものではなく、研究室の先生が申請をして審査を通れば研究費を獲得できる。よって同じ学科に所属している研究室でもお金の有無に雲泥の差がある。言ってみれば日経225レベルの一流企業と、辛うじて法人登記をしているものの何をやっているのかわからない今にも消え去りそうな弱小零細企業が同じグループに入っている状況である。
大学院ではただでさえ特に学費を払って研究室で働くというアレな状態になっている日本の大学で、所属する研究室に金が無いから学べることがなくなるだなんてやってられなくないだろうか?進んで罰ゲーム状態になるようなところに進まないことである。
一方、大型の研究費を取ってこられるような研究者は有力な研究者である可能性が非常に高い。良い環境で取り組むことで成果も出やすくなり、よりレベルの高い同僚がいる確率が高くなる。ジリ貧研究室で、機材どころかパソコン周辺機器が買えないなどによるよく分からない血のにじむような努力や雑用に追われるような本来の目的からそれるような要は無駄な努力をする必要もなくなる。結果として就職や留学にも有利に働く。
就職で言えば業績が良い企業・成長業界なら待遇もよくなるし、実績も上がりやすい。成長企業の利点がある。
客観的に調べられるサイト
なんと、教員の研究費を調べられるサイトが存在する。研究室選びには非常に有効である。
このサイトで希望する先生の氏名を入力してみよう。授業を取っている教員とかも入れてみてもいいかもしれない。
なお、以下のリンクにあるように研究代表者というのは、研究費を申請して採択された本人であるということである。研究分担者はざっくり言って下請けで、研究協力者は、ただの協力者である。誰でもなることが出来る。お金を受け取っていないはずである。これ以外にも研究費はいろいろあるわけだが、日本における研究費はこれが主であると広く認識されている。
研究分担者(けんきゅうぶんたんしゃ、Kenkyuu-Buntan-Sha)は、日本学術振興会の科学研究費補助金(通常「学振の科研費」と 呼ぶ)の一部を主体的に使用する者と定義されています。つまり、研究代表者とともに、補助事業の遂行に責任を負い、自らの裁量で研究費を使用する者であ り、学振の「補助事業者」として位置づけられます。
連携研究者(れんけいけんきゅうしゃ、Renkei-Kenkyuu-Sha)、は補助金(=科研費)を主体的に使用しない者で、補助事業者に は、学振は位置づけていない(=補助事業者ではない)。
研究協力者(けんきゅうきょうりょくしゃ、Kenkyuu-Kyouryoku-Sha)とは、研究課題の遂行にあたって協力をおこなうもので あり、補助事業者ではない。
研究代表者の定義は、研究計画の遂行に関してすべての責任を持つ研究者とされ、以下の要件をもつ
- 応募時点で所属研究機関において研究を職務として遂行することがみとめられていること。
- 公募する研究期間中、研究代表者としての責務を果たせること(定年退職の予定があればその期間まで。ただし特任教員や特任研究員として所属組織が委任経理の任を担ってくれる場合は別)。
- e-Radに登録されていること。
- 応募だけでなく、採択後には研究の遂行だけでなく、経費の使い方や事務処理、さらに実績報告書や研究成果報告書を責任を持ってきちんと提 出できる者
- 研究組織を構成する場合には、研究分担者との関係を明らかにするため、「研究分担者承諾書」(→本人による電子申請となりました)等を徴収し保管できる者。
https://www.cscd.osaka-u.ac.jp/user/rosaldo/16_kaken_terminology_jsps.html
こういうことを書くと「うちは研究費はそんなにないけど、研究は積極的にやっているし、成果も出ているよ」みたいに言う人は必ずいる。
ではなぜ、積極的にやっていて、成果も出ているのに、研究費が無いのか?何か理由があって申し込んでいない?そんなわけないだろう。よっぽど無能なのか?よっぽどギャンブル的なのか?ブラックリストに載っているなどの理由があって申し込めないのか?いずれにせよ、あなたが在籍する間に成果が出まくる可能性は限りなく低い。やりがいとキラキラ感を前面に出して、実態がないことをごまかそうとしている自称キラキラベンチャー企業()と大差ない。
3. 実績
研究は結果が出ないと意味がない。結果で判断しよう。ついでに学生が積極的に発表しているか?を見る。教員が自分で筆頭著者になり発表しているようではあなたの経験にならない。
1学年に何人いて何人が発表してるかも見よう。それで大体の確率が分かる。
なお研究費が取れているのであれば、実績は上がりやすい。というか実績が無いと研究費が取りにくい。個人的には論文実績よりも、獲得研究費額の方が信憑性が高いように思う。
4. 教員の人格
ここまでで所属することによる「メリット」が大きい研究室が分かった。最後は人間の部分である。これも非常に重要である。研究者というのは実績で判断されるファクターが大きいことから、人格破綻者の率が一般社会と比べて多い傾向が感じられる。
どこをどうやったらあなたみたいな人格の人間が出来てしまうのか?それ自体が重要な研究対象なんじゃないか?と感じる人も中にはいる。もちろん近寄らないに限る。授業などをやっていたら地雷教員は結構簡単に見分けられるだろう。
5. 研究内容
環境がまともであることが分かったら、やっと興味のある研究かどうかを考えればいい。学部学科によっては上記のスクリーニングをしていくと残る候補の研究室が2-3個しかない可能性もある。ここでキャリアに保険を掛ける意味でもプロセスに価値がある研究を行ったほうが付加価値が付く。具体的にはひたすらピペットを使い続ける研究よりは、シミュレーションでコードが書けるほうが付加価値が付く。
勿論、いくら良い環境であっても、全く興味がない研究室はやめたほうがいい。さすがに探究をするのに全く興味が無ければ調べる気もうせてしまう。
6. 在籍者・直近の卒業生
同僚のレベルは重要である。朱に交われば赤くなる。切磋琢磨にもなれば、逆に腐ったミカンのようになる可能性もある。ただ上記1,2,3,4を満たし、ここまでくれば、必然的に在籍者・卒業生のレベルは高くなっているはずである。上記でどれかが欠けそうであったら、6番を重視するのも精神衛生上よい。
7. その他の事項
コアタイムやミーティングなどの補足事項はこの辺りで考えればよい。大勢に影響はない。
もう各項目の文章の分量で何が重要なのかが分かってしまうが、今までの実績で配属されてから急激に変わる可能性が全くないわけではないが、やはり卒業・修了者や研究費に注目するのが有効であろう。就職するときもその後のキャリアや待遇を気にするのと同様に。
多くの大学の学部には、どの単位が取りやすいかをまとめたサイトや雑誌が存在する。慶應のリシュルートや東大の逆評定のような学部生の授業の単位の厳しさの表を作るように、研究室・ゼミ版のリシュルートや逆評定を作るとすれば上記の就職先と研究費が載ることとなるだろう。
『リシュルート』というのは、慶應の履修情報誌。https://twitter.com/jukusou
逆評定・時代錯誤社は東大の履修情報誌。https://jidaisakugosha.net/gyakuhyoteiDL.html
なお新任の教員の場合、こういうトラックがないので進学自体がギャンブルになりがちである。
その他の事項
プロセスに付加価値のある研究
プロセスに価値があると上記で書いたが、これは、行動によって付加価値が出せる研究を行ったほうがいい。具体的には、理論やシミュレーション・コード関連の方がピペットをひたすら使うウェットの実験などよりも汎用性と付加価値が高い。(もちろん実験テクニックなども、同じ分野で就職する限り有効である)
実際のところ同じ分野で研究者になる以外では、論文も発表もほとんど意味をなさない。お刺身盛り合わせのタンポポのようなものである。飾りに過ぎない。
しかし論文と発表などの過程によって事象を整理して発表する・執筆するスキルは非常に有効である。
大学院・博士課程?
仮に就職を希望する場合、企業が学歴フィルターを敷いている点に留意したい。この学歴フィルターは大学院からでも有効である。いわゆる学歴ロンダリングというものであるが、これは修士で就職する場合には非常に強力であることがたびたび話題になっている。
博士課程では、日本の博士課程は見方によっては懲役よりも待遇が悪く、他の分野に行くにも将来日本の大学の教員を目指すにしても、海外の有力大学の方が効果的であることは半ば常識になりつつある。
大学院(博士課程)の悲惨な待遇は生活保護や刑務所の懲役刑未満という話
それでもなぜ博士課程を薦めるのだろうか?おそらく教員自体の生存バイアスと、教員にもメリットがあるからである。研究室からお金を出さなくていい無料の労働力で、さらに博士課程の学生が在籍していれば大学から研究費が上乗せされたりする。また博士課程の学生がいる研究室というのは比較的研究を行っている研究室に見える。要は教員からすれば、指導時間などは増えるものの、金銭的には博士課程の学生が増えるのはノーリスクでメリットしかない。
学生のことを真剣に考えていれば、海外の有名大学の有力研究室などを薦める可能性も高いが、自分の研究室を強く勧めるのは上記の可能性が高い。
もちろん一部有力な教員は存在するが、それでも海外の有力大学への進学と比較するとハイリスク・ローリターンになりがちであることを留意すべきである。これは日本における博士課程の位置づけや文化・仕組みの問題なので、個々の大学教員の努力ではどうにもならない部分である。
(他大学進学の場合)大学のレベル
「大学院では、どこの研究室かと、実績が重要でどこの大学は関係ない」という話はよく聞く。これは研究に限った場合である。就職ではもちろん学歴フィルターがあり、日本だけでなく海外でももちろん存在する。そんなときに有力大学に在籍している場合、仮に研究がうまく行かなかったとしても、仮に研究に飽きたとしても、世界中の企業やリクルーターからひっきりなしに連絡が来る。これにより自然と好待遇での転職が容易になる。これは非常に有効なセーフティネットといえるではないだろうか。こういう見方を就職などの進路にも生かしていただきたいところである。
色々調べることが有るが、人生やり直しはきかない。後悔のない選択を祈るばかりである。
その他のサイト
ざっと検索したところ他にも多種多様な見方があるようなので、参考いただきたい。全体的に研究フォーカスの選び方が多い印象である。