タイトルは釣りみたいになってしまっている。
以下の記事にも書いたが、一部の大学の大学院や研究室は空気が淀んでいて、哀愁が漂っている。
裏切り者?なぜ大学院・博士課程やアカデミアは歪んでいるのか?
後悔しない研究室やゼミの選び方!大学の現状の仕組みから考え、安全で有効で効果的な方法
実際よく耳にすることであるし、私自身もそのように感じていた。「裏切り者」と罵られたという話もよく聞く。一部被害を受けた経験もある。
しかし一方でアメリカ・イギリス・ドイツ(大体人気のある機関)では全く感じることはなかった。何故こうなるのかを考えていきたい。
なおあくまで構造を踏まえた全体的な傾向を考えているもので、個人的な事例はまた別の話である。そして当然のように個人が観測する範囲、特に実験が絡む領域での傾向を考えたもので、個人で行える分野や一部の人気大学や人気研究室・人気ゼミはこれには当てはまらない。予めご了承いただきたい。
自由競争≒一極集中
自由競争を推進すると、一か所に人気が一極集中する。これは様々な業界で起こる。Youtubeチャンネルを開設したYoutuberはごまんといるものの、人気はごくわずかなYoutuberに集中。一部に高額の出演やCMオファーが殺到する一方で、バイトで食いつないでいる多くの売れない俳優の方々。一部の人気企業は超高倍率な一方で、閑古鳥が鳴いている多くの中小企業。
大学全入時代といっても、倍率がどこも1倍前後になるわけではない。一部の高倍率の大学と多数の定員割れで構成される。これと似たような構造になっている。
在学する人材の傾向
個人の性格などは別として、どういう属性の人たちが所属しているかを考えよう。
学生の傾向
そもそも一部の人気大学や一部の人気研究室・ゼミ以外ではどうしても入りたいという強い気持ちを持った第一志望で入ってくる率は高くない。数字的にここなら受かりそうと思って受けた、とか、行く気なんてなかったけど志望校・志望ゼミに落ちてしかたなく、とかそういうのが主である。
そんな状態での研究室やゼミにおいて、ちょっとでも研究に興味がありそうな優秀な学生が来たかと思えば、やれ海外だ、有力な研究室のある人気の有力大学に修士から移るだ何だで、自分のところには全く残らない。結果的に残るのはどこにも移れなかった学生、就職に失敗した学生、そもそもやる気が全くない学生ばかり。東南アジアをはじめ海外から来たいというやる気があると思われる留学生も似たようなレベル。実際のところは、その留学生たちでさえも北米・欧米・中国・自国の大学にどこにも受からず、留学生支援のある日本の大学に来た学生。やはり空気感は同じだ。端的に言えば、様々なタイプの競争に敗れ続けたものが流れ着く先となっている。
教員の傾向
学部時代は好成績で、就職をしていく同期を脇目に修士に進学した。そこでも同期よりは実績を上げたし、就職ではなく、過酷だといわれた博士課程に進学した。同期と比べると収入や立場に圧倒的な差がある。人気大学の枠は競争が激しいし、最近は女性や外国人などいろんな力が働いてさらに難しくなっている。その後も熾烈な競争の後に、やっとの思いで常勤の教員になった。これで研究が出来る、と思っていた。
しかし現在の大学は、雑用ばかりで研究なんてなかなかできない。研究が一番できたのはもしかしたら大学院生の時かもしれない。あまりやる気がない感じの学生の相手を必死でする毎日。研究が出来ないので研究費が取れない。じっくり研究が出来ているのは一部の研究室のみ。悪循環。「こんなはずではなかった。」誤解を恐れずに言えば、程度の差こそあれ、教員も流れ着いてきた状態である。
一方研究が好きだから、というよりも研究と付随する教員の地位に固執していると見受けられる方も一定数いらっしゃる。予想する感じでは以下のような状態だろうか。
「学校でもスクールカースト最底辺。基本的に不器用。運動なんてできない。全くモテず。どこででもいじめられてきた。大学にどうにか入ってもずっとボッチ。しかし大学4年になって始めた研究は、なんかちょっとだけうまくいってしまった。人生初めての成功体験。就活しようにも面接で全く受からず大学院に進学。少なくとも研究をやれば馬鹿にされない。発表数も他の人よりは多い。これでやっと客観的に人よりも優位に立てる。ヒエラルキーの底辺じゃない扱いはうれしい。もう研究以外はやりたくない。大学教授ならどんなにキモくても、いじめられないし、馬鹿にもされないだろう。もう大学教授を目指すしかない。」という感じで大学教員を目指しているのではないか、と感じる方々が一定数いる。ハイスぺリア充みたいな学生が来たら過去のトラウマがフラッシュバックするし、いじめたくなってしまう。
いずれにせよ、少々屈折している印象を受ける。
上記のような傾向はないだろうか?
空気感
個人的な経験や言動、公開されている記事から、空気感と原因を予想したい。以下のような業界と空気感が似ていた。
地方の集落
まず、田舎の集落の雰囲気に似ている。比較してみよう。
田舎では都市部に行く人を裏切り者扱いする傾向がある。大学の研究室でも同じようなことが起こっているように見受けられる。
就職して当たり前の人は信じられないかもしれないが、一部の研究室ではそこで育って就職していく人を、研究室に育ててもらったのに、それを捨てて就職していく裏切り者と呼ぶものが多数います。
都会に居て当たり前の人は信じられないかも知れないが、田舎の人はそこで育って都会に行く人を、田舎に育てて貰ったのにそれを捨てて都会に行く裏切り者と呼ぶ者が多数居ます。
なのでその人が帰ってきてコロナを持ち込んだとなると、想像するだに恐ろしい(´Д` )— あつろ〜 (@aturob) April 19, 2020
今でも一部の研究室では「就職する=アカデミアを裏切る」という思考があり、帰ってきても「裏切り者」呼ばわりされてハブられる
当然他所からの進学者は研究室カースト最下層(カーストは出身大学学部で決まる)で使いっぱ
女性の場合はさらにひどい
とても暖かい、心休まる日本の研究室の風景
今でも一部の田舎では「都会に行く=地元を裏切る」という思考があり、帰ってきても「裏切り者」呼ばわりされてハブられる
当然他所からの婿養子は地元カースト最下層(カーストは出身中学で決まる)で使いっぱ
女性の場合はさらに酷い
とても暖かい、心休まる日本の田舎の風景— 緑のハイオクたん (@ryokucha_wo) June 4, 2016
アカデミアで一番悲しいのは、外資企業とのスタンスや待遇の差である。
分野外の活動や視点、成果を受け入れる土壌が全くないことが多々ある。研究以外はするな、アカデミアを出るヤツや出たヤツは裏切り者だ、長老大御所教授は偉い、大学は正しい、研究職が至高という思想など、腐臭がするしきたりに目眩がするのである。
田舎で一番悲しいのは、都会との文化資本の差である。
趣味、教育、挑戦を受け入れる土壌がまったくないことが多々ある。女は普通科(高校)に行くな、ムラを出るヤツや出たヤツは裏切り者だ、長老は偉い、寺は正しい、勉強は役に立たないという思想など、腐臭がするしきたりに目眩がするのである。
— ピピピーッ (@O59K2dPQH59QEJx) April 5, 2017
日雇いの派遣
また、日雇いのイベントバイトなどと同じものを感じた。
個人的もイベント会場の設営の単発のアルバイトに取り組んだことがある。ただ見た目や言葉遣いは、いくばくかはマシであったが、今思うと一部の研究室で漂っている空気感は同様であった。
集合場所のBゲートの柱の脇に17:00集合。何の目印もない。周りを見渡しても誰にも挨拶もせず、目を合わせることもない。待ち合わせ時間を数分過ぎたら、おもむろにリーダーと思われる人が点呼を取る。どっきりかと思った。しかし点呼は名前ではなく会員番号。一緒に作業する人はTシャツが破れているし、髪の毛はとかしている形跡もない。フケが雪のようにたまっている。現場のリーダーと思われる人からは初対面なのに「お前」とか言われる。荷物の片づけの指示が明らかに分かりづらいために確認をすると「あ?うるせーな。お前、頭悪りぃな」とか言ってくる。遅いと怒号が飛ぶ。
確かこれで時給1200円位交通費無しであった。(大学の時に行っていたTAは時給2000-4000円であった。)この後、単発のバイトには二度と行かなかった。
斜陽産業
さらに斜陽産業も全体的に空気が淀んでおり、活気がなくなる傾向にある。さらに現実を直視しなくなる傾向も。
このところ自動車業界が騒がしい。タカタ、神戸製鋼、三菱自動車、日産、スバルのスキャンダルを見るに、自動車業界の劣化が止まらない、と言われても反論できない状態だ。自動車業界を中心とする製造業は、日本の産業の根幹を支える。この状況に暗澹たる気持ちになる。別に憂国の士を気取るつもりはないが、このままでは本当に日本の産業はダメになりかねないと思っている。これにはメディアの責任が大きい。テレビなどでは「日本人すごい!」という切り口で、日本の文化や産業の良さをことさらに強調している。日本人の自己満足を満たすように作るメディアの「自己満足バイアス」は、衰退の裏返しではないのか。
‐先ほど斜陽産業だと仰っていましたが、社長就任時に業界内で感じた課題感をお聞きしたいです。
まず圧倒的に閉鎖的だなと感じましたね。かつ保守的。日本酒造業って、昔からその土地の名士が携わっている場合が多くて、みんな殿様気質なんですよ。だから、自分たちの価値観でしか物事を判断していない、周囲の意見や取り組みをまるで取り入れないというような空気感があったんです。
この傾向も同様である。
日本の雇用の流動性の低さ
アカデミアでは研究費は数年毎に申請する方式であるため、成果が思うように出ないと、途中から研究費が無くなる可能性もある。そして波に乗れずに鳴かず飛ばずになる可能性まである。研究費が取れないと、研究成果も出づらく、人材も集まらない。結局自分のところへ配属されてくるのは、他の研究室を落ちたやる気のない学生ばかり。場合によっては「Z戦士枠」とか言われて落ちこぼれ学生を均等に面倒を見るような制度まであることも。研究どころの騒ぎではない。修士なんて実質上ほぼ就職予備校だから、研究に興味がある人材は皆無。研究者だと思っていたが、実際にやっていること託児所の職員みたいになっている。
-est2015ではpopのコマ責やってます。理工学部なので、普段は矢上に生息してます。教職課程も取ってるんで日吉授業も多いです。それから今日Z戦士の通達きました。みんなにわかるように言うと成績悪すぎて、研究室選ぶ権利なくなった人をZ戦士と言います。普通に辛いです笑 今日は決起会ですよ。
そして他に移るにも、一極集中の構造から、当然人気校の倍率と敷居は高くなる。圧倒的でないと、この状況からは抜け出せない。
一方で、民間はどうだろうか。大学の時の同期を見てみると、研究ばかりやっているのに、環境も待遇も自分なんかよりめちゃいい企業の研究職が羨ましい(これも配属ガチャというものがあるようである)。しかし、日本の年齢や年次を重視する雇用慣行と雇用流動性の低さから、特に年齢が高くなってからは、シャカイジン・ケイケンが邪魔をして企業をはじめとしてどこにも移れない。他の分野に移ろうとしても、あるのは日雇いの看板持ちとか荷物運び、Uber Eatsのドライバー、ハローワークとかしかない。TAの学生のバイトに負けそう。要するに研究か否かによらず、どこにも良い待遇では移れない。解決方法もない状態になっている。
ヒエラルキーの固定化
人間は社会的地位が高いほど幸福度が高いという研究結果まであるほどに、社会的な動物である人間は、社会的地位やヒエラルキーを気にするようである。
日本自体が斜陽国家化している中で、さらに少子化傾向で教育業界は下火になりがちである。研究に対する投資も日々減少している。言ってみれば斜陽国家内の中でもさらに斜陽業界ということになる。よって、ごく限られた非常に狭い業界における専門性以外では、優位性が何もない状態になっている。そして他業界に移れないために身動きも取れない状態である。数々の仕組みの狭間で動けない状態である。
特に不人気大学の不人気研究室は、言ってみれば「ヒエラルキーの底辺の中のさらに底辺」に位置することになる。負けトーナメントのさらに負け同士の戦いでも負け続けた先のような状態である。当然のように、逃げるようにこぞってヒト・モノ・カネが出ていく。すべてが出ていった残りのような状態である。そして現状の大学の制度や研究費の構造上、挽回する方法が残されていない。さらに日本の雇用制度上、仕事に飽きたり、嫌になっても、他の機関や分野に移ることもできない。残りの寿命を固定化されたすべてが「出ていく側」から動くこともできない。よって嫌になっても身動きが取れない。
解決方法?
これの解決方法はあるのだろうか?個人的にはよく分からない。仮に変わったとしても社会構造・政策や制度の問題であるので、構造が変わることには現役の方々は引退しているかもしれない。個人で出来ることに絞ると、例えばこれであれば、解決できるかと思う。「世界からヒト・モノ・カネが集まる大学、例えばハーバード大学の教授に転職する。」ただ、そんなことが出来るのであれば、既にやっている、というのもよくある意見だろう。では、逆に考えたらいかがだろうか。教員はウーバーイーツなどよりは好待遇で、少なくとも現行の雇用制度上は、研究をしなくてもクビになることはない。お金のかかる研究をあきらめて、学生の対応や隠居生活を行うというのであれば、一種良い生活が出来るのかもしれない。お金のかかる研究をしないのであれば、研究費が無くても困ることはない。窓際族のような感じだろうか。現代の勝ち組?窓際族にまつわる3つの誤解とその行く末…
学生の視点
少しでもやる気があれば、この負のスパイラルには入らないようにしたほうが良いだろう。以下の記事で見分け方を紹介している。
後悔しない研究室やゼミの選び方!大学の現状の仕組みから考え、安全で有効で効果的な方法
リスク管理の観点からも、アカデミアを目指す方々は、スポットライトが当たりにくい部分には、こういう一面があることも、進学する際に知っておいた方がいいかもしれない。