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公開日:2019年8月12日
更新日:2020年6月3日
力の入ったおもてなしにVery Important Person(VIP)待遇というものがあるのはよく知られるところだろう。状況によっては実際は大したVIPでなくても、VIPのような扱いをされることがある。そんな誰もは一度は憧れるだろうVIP待遇。しかし見方によれば、実は軟禁と変わらないのではないだろうか。
典型的な対応
空港につくと、名前の書かれた紙を持っているどころか、数回目の訪問には顔パスである。空港のarrivalゲートで、自動で私を見つけてくれ、スーツケースを運んで、送迎車へ荷物を乗せてくれる。
後部座席のドアを開けてくれ、送迎車乗り込む。ドライバーに行先は既に伝えられているので、何も言わずともそのまま滞在する高級ホテルへ。
高級車寄せに到着すると、今度はホテルのベルボーイがドアを開けてくれる。
送迎者のドライバーは「では明日8時にこちらにお迎えに来ます。」と言ってドライバーはその場をあとにする。
レセプションでパスポートを提出すると、既に知らせられてある日程の確認が行われる。
その後、部屋に向かうが、荷物はベルボーイが部屋まで運んでくれる。
鍵はオートロックで、部屋にはシャワーやトイレがついている。
部屋について、しばらくするとベルが鳴る。
「季節のフルーツをお持ちしました。」と季節のフルーツを部屋まで持ってきてくれる。
夜も度々ベルが鳴り
「本日はクリーニングするものはありませんか?」や「お水やタオルは足りていらっしゃいますか?」と非常に丁寧な対応である。ここで預けると次の日までにアイロンもかけられて届けてくれる。
朝起きると、まずは朝食の時間である。朝食はブュッフェ形式で好きに選ぶことが出来る。
その後昨日の指定時間にロビーに行くと、ドライバーが迎えてくれ、目的地へ。目的地の建物につくと、ドアを開けてくれ、部屋に通される。
業務は場合によっては議事録を取ってくれることもある。
業務の後には、また送迎車でホテルへ戻る。
部屋に戻るとベッドメイクがされており、チョコレートが置いてあったりする。
使ったアメニティは自動で追加されている。
しばらくすると、また夜には、
「本日はクリーニングするものはありませんか?」や「お水やタオルは足りていらっしゃいますか?」と例によって丁寧な対応である。
これを繰り返し、出張最終日には送迎車で空港まで送られ、空港へ。
そのまま出国する。至れり尽くせりである。
すぐに慣れる。それどころか・・・?
人間慣れというのは怖いもので、最初は感動していたものも、すぐに慣れる。なれるだけではすまず、次第にうっとうしく思ったりすることもある。
上の対応もこんな見方が出来る。
空港について、送迎車ドライバーに見つかると、半ば荷物を奪われる。両替をする余裕もなかったり、トイレに行く余裕もなかったり。
むしろ用意周到に見つからないようにこっそりと両替をしたりする。別に悪いことをしていないのに後ろめたい。
ドアを開けられ問答無用で乗り込みを強要。もう乗らないといけない。断ることは出来ないだろう。私の身柄を拘束し確実に輸送することはこれは彼らの業務である。
送迎車をおりると、間髪を入れずにベルボーイの手に私の身柄を引き渡される。荷物の中から何かを取り出している余裕はない。途中で何か変わったものを見かけたからと言って、おつおつ立ち止まっている訳にも行かない。
もはやひたすら受け渡しをされるラグビーのボール気分。
あー、いや、別に逃げないんで、そんなに急がなくても・・・?
ホテルの予約も管理されていて、私の日程や行動はもはや完全に把握されている。
部屋に着いても、内側に鍵はついているとはいえ、数時間ごとに訪れるピンポンがなる。サービスとはいえ、基本的にいらない。
ピンポンに反応しないと、ボーイは勝手にドアを開けて入ってくる。
いや、あの眠いんですけど。フルーツ要らないんで、寝かせてくださいませんか・・・?しかも着替えているときだと、ピンポン3回って長いようで結構短いよ?下着で待ち構えちゃう感じになっちゃうよ。
半ば私が部屋にいることを確認しているかのように感じることもある。
朝食もブュッフェ形式とはいえ、何日も滞在していると食べるものはほぼ同じメニューになる。出されても食べられずに、野菜ばっかり食べるようになったり。
何時に迎えに来るといわれる送迎のドライバー。その時間にロビーにいないと電話がかかってくる。電話がつながらないと「通報」される。ほかの人からメールや電話が来る。ここで返事がないと、早々に捜されるはずである。
道を通ったところのあれを見てみたいから、ちょっと止まって欲しいとかは出来ない。
ドライバーやベルボーイなど係の人達にひたすら身柄を受け渡しをされ、部屋以外で1人になることはなかなかない。
仕事でも議事を取っている。うかつなことを言うのは難しい。
こんな調子で、あれよあれよと最終日である。そのまま空港へ送られ国外送致である。
雨の中の送迎車は、特に冷たく感じた。
もはやこれと同じでは?
さらに見方を変えるとこれに見えるかもしれない。
外国で逮捕され身柄を拘束された容疑者。
現地の空港に着くなり、待ち構えていた現地の警察に、身柄を引き渡される。
空港に待機している護送車に乗せられ、そのまま拘置所へ。
それらの施設でも、入口で身元確認がされる。
鍵は外側についているが、トイレは部屋の中についている。
(これは収容所だが)毎朝時間になったら懲役労働を始める。
取り調べでは聴取を取られる。
それ以外の時間のときにも、看守が不定期で見回りに来て、部屋にいるかを確認される。部屋にいないと通報をされ徹底的に捜索される。
食事も毎日似たようなものが出る。
裁判の日には、担当者が部屋まで向かえに来られ、再度護送車でへ引き返す。法定ののちにまた護送され元の拘置所の部屋へ。
https://www.youtube.com/watch?v=GF6ALXyvkz4
どうだろう、エアコンやインターネットなど備品の差や、状況の差こそあれ、監視し確実に護送機能としては、ほぼ同じではないだろうか。
さらに日本は上記のような感じらしいが、他の国ではもっと設備待遇の良い施設もあるようである。
ペーペーの海外出張程度でこんな感じである。重役だと会う人の履歴書チェックなどもあることがある。なお「本物のVIP」の場合には、自宅に黒塗りが乗り付けからの、プライベートジェット等さらなるきつい軟禁制度もあるだろうが、本質的に同じであろう。
精神だけは自由
さて、場合によっては護送のように感じる待遇である。
しかし、どんな境遇においても、精神だけは自由である。自由に動けるのはあきらめて、仕事以外の軟禁中はひたすら本を読むか、この記事のようにブログを書くなどの方向に進化(?)・適応(?)している。
少し飛ぶように見えるが、これは逆に言えば、どういう状況になっても、なにをどう考えるかは、常に自由であるのだろう。出来るかどうかは別として。私は絶対影響されると思う。
27年間よく分からない罪で投獄されてもなお主張を続けるのも自由である。
勝利をつかむその日まで、
一歩ずつ、
着実に進んでいきます。
- ネルソン・マンデラ
https://en.wikipedia.org/wiki/Nelson_Mandela
さらに病気で思うように体が動かなくなっても、それでもなお、どう考えるかは自由である。
難題に直面した時でも、足元を見ずに星を見上げてみよう。
――スティーヴン・ホーキング
・・・本当にいざとなったら逃げだすことが出来るただの海外出張の軟禁とは比べ物にならないが、なんとなくどんな気持ちだったかが、薄々とわかる思いである。
注釈
観光じゃないし、仕事なんだからしょうがない、といってしまえば、それまでの話である。
なお夜は時間があるが、あまり周りに店などが無い地域や、天気が激しい地域では、もはや部屋から出ることは無い。結局は部屋に引きこもっているので出る事由があるかどうかという選択肢はあっても、結局それを行使しない。どちらにせよ同じである。