公開日:2015年6月9日
更新日:2019年7月15日
はじめに
日本で一般に海外に留学や滞在というと、恐らく英語圏、とくにアメリカを想像する人が多いのではないかと思います。しかし世界には約250の国と地域があるため、他にも多くの選択肢があります。
殊に(今の私もいえたことではないですが)、英語圏以外の国へ行くことは、語学の観点からも、英語とその国の言葉を両方習得することになるため、「効率」がよいのではないでしょうか。
また英語圏への留学は希望者数が多くなるため、奨学金などの倍率が上がりがちですが、英語圏以外への場合は、必然的に競争率が下がるので、希望する場合は支援を受けやすくなる傾向にあります。
一般的な傾向としては英語圏へ人材が集まりやすいと思います。しかし分野や見方によっては、違う場合もあるでしょう。よってそれらも、場合によっては有効な選択肢となりえるかと思います。
以下はDAADのOB会報であるECHOに寄稿させていただいたものです。オンラインでは閲覧できないため本記事として公開いたします。
私はこのとき既に「すゝめ」を使っていたようです。やはりこれの影響でしょうか。
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2013年
派遣報告 ~非英語圏のすゝめ~
篠原 肇
派遣時在籍:慶應義塾大学 理工学研究科 Keio University Graduate School of Science and Technology
派遣先:ボン大学応用物理学研究所 Institut für Angewandte Physik, Universität Bonn
現在籍:ケンブリッジ大学 キャベンディッシュ研究所 Cavendish Laboratory, University of Cambridge
私は2013年に短期派遣の学生として、ボン大学応用物理学研究所(Institut für Angewandte Physik, Universität Bonn)にてレーザーを用いた物性物理実験の研究経験を積ませていただきました。
私がDAADの派遣によりドイツでの滞在を選択した理由は主に3つあります。
1つ目は非英語圏での経験です。私は日本生まれ、日本育ちですが、修士課程修了までに数か月の英語圏での就労経験があり、さらに後の進路がイギリスの博士課程であったことから、環境面でより多くの経験を得るには、日本や英語圏ではなく非英語圏に身を置くことが、視野をより広げられると考えました。
2つ目は高い教育・研究力です。ドイツの教育・研究レベルは他の非英語圏と比較しても高い水準であると認識していたので、ドイツは最適な国に映りました。
3つ目は期間の問題です。一般的に日本の大学は3月に終了する一方、欧米の大学は10月に始まることが一般的であるため、約半年、間が空きます。私の場合も同様でした。この時期を有効活用し経験を積むため、短期間の受入先を探しました。世界的に短期間の受入はほとんどない中、DAADは短期派遣を行っています。受入先を探すことに大変苦労しましたが、最終的にボン大学への受入とDAADによる派遣が決定しました。
DAAD本部も拠点とする元西ドイツの首都であるボンは、とても過ごしやすく美しい町でした。偉大な作曲家であるベートーベンの故郷でもあり、多くの音楽系の学生が留学しているようです。毎日のように大学内のホールや地域のホールで様々な形式のコンサートが行われていました。大多数が無料であったため、私もよく足を運びました。
写真:筆者ベートーベンの家の前にて。
ドイツでの生活は、一言で言うと大変でした。公用語がドイツ語であることは勿論、公共における文化が異なります。例えばドイツでは法律により、日曜日には飲食店や観光地における土産店以外の店舗は休みです。この事実を知らなかった私は、市街中心から少し離れた位置に住んでいたことも相まって、最初の日曜日の夜は断食をする羽目になりました。身をもって学ぶとは正にこのことです。買い物においても、ペットボトルにデポジットがついていることを知らず、最初の週は分別式のゴミ箱に、「ペットボトル」の区分が無いことを不思議に思いながら捨てていました。電車では、駅にホームがないので、切符を買わずに電車に乗れてしまいますが、車掌が抜き打ちで検査を始めることがあるので、切符は買っておかないといけない事実に、危うく電車に乗りかけて気付きました。実際に同じ車両で切符を持っていない人が罰金を支払わされているところを目撃しました。
研究においても、日本では馴染みのない業者の装置や、ソフトウェアが利用されていました。逆に世界標準であると思っていた方法が通用せず、少々文化の違いに戸惑いました。殊に日本は、アメリカへの留学する人が多いことや、政治的影響を主としてアメリカの影響を多大に受けているので、「日本やアメリカで利用されているものが世界標準」という考えを持ちがちですが、これは極めて安易であることを改めて実感しました。費用の面では、大学院生が学生として学費を払うのではなく、研究者として雇われ給料をもらっている点も欧米の形式でした。他の研究室のメンバーと話している際、日本ではむしろ大学院生が学費を払っており、研究活動を行っていても給料を貰うことは一般的にはない点に言及した際に、非常に驚かれ、困惑されました。この費用の面で日本は世界の人材獲得競争から大きく後れを取っている印象を改めて受けました。
総じて本滞在を通し、ドイツでの研究と生活の両面で多くのことを学びました。これからの時代、国際化がさらに加速し、世界のより多くの英語を母語としない地域においても、第二言語としての英語でのコミュニケーションが取られていくことでしょう。さらに日本を、日本や最大の留学先国であるアメリカの外から見ることができるので、日本を客観的な視点で見ることができます。その意味でも非英語圏であり高い研究教育力を持つドイツへ滞在し経験を積むことは、良い選択肢と言えるのではないでしょうか。
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非英語圏のすゝめ、という全く同じ記事名でスイスに留学中の方の記事がヒットしましたので、いかにリンクを張ります。チューリッヒ工科大学(ETH)で学ばれている方のようです。ちょっと用事でチューリッヒ、というかETHには寄りましたが、かなりよいところでした。