目次
公開日:2016年11月5日
更新日:2019年7月15日
こんにちは。篠原肇(@HajimeShinohara)です。
ノーベル賞輩出数最多の機関として知られるキャベンディッシュ研究所には、奨学・制度特待制度があります。このプログラムのひとつに毎年10月から11月にかけて、世界中からテーマに合う著名な人物を集めて行うイベントWinton Symposiumがあります。
Symposium 2016 — Winton Programme for the Physics of Sustainability
さてイベントの詳しい内容については、上記リンクの公式ページを参照いただくことにして、このシンポジウムには手伝いや準備が必要です。当日の手伝いは、該当学生が会場で配布資料を渡したり、ネームバッジを渡したり、質疑応答のマイクを渡したりなどです。よくイベントでありがちな感じの、おそろいのポロシャツを着ています。
さて本題に入りますが、今回はこの準備の話です。こういうシンポジウムには配布資料がつきものです。学生の準備は、具体的には参加者への配布資料をファイリングします。
さて今回は、この作業中に興味深いことが起こったので、ちょっとまとめてみたいと思います。なお作文のため順番を前後させたりなどはしましたが、おおむね内容、特に発言内容は事実です。
比較のためとある派遣のアルバイトにて
比較のために、似たようなアルバイトをした経験を乗せておく。
私は日本の大学時代に、興味もあり短期の派遣のアルバイトで、イベント会場の設営のバイトをやったことがある。参加条件は特になく、何時から何時までこの会場で作業で参加可能な人はコールセンターで予約を取り、現地に向かうというようなものであった。時給は確か1000円前後。もちろん早く終われば解散なので、効率が良いほうが喜ばれる。
アルバイトは一か所に集められて、ベテランと思われる人から作業説明を受けた。20人くらいいる人を、さぼらないようにだろうか、2人組ずつにされて作業をする方式であった。
その際に、約30歳前後の男性と一緒に作業する機会があった。なんとも覇気がない印象で、挨拶をしても目を合わせてくれないような感じの方。
展示ボードを止めてある大型のクリップをまず片づける説明は大体このような感じ。
クリップを持ちながら、
「まず、このクリップをボードから外します。ワイヤーがついていないものはAのボックス、ついているものはBのボックスに入れてください。ではお願いします。」
さて状況は、ボードはイベントホール中にたてられているものの、ボックスは部屋の角に1か所。他の人もいるので、ボックスは動かせない状態。
作業を開始したところ、その男性はワイヤーがついていないものだけをひたすらAのボックスに運んでいました。交互についているのでBも一緒に外したほうが明らかに効率的です。そこで私はその男性にちょっと控えめに言ってみた。
私「あの、ワイヤーがついているやつも一緒に運んだほうが…?」
男「あ、ク、クリップをは、外すんですよね…?」
もはや私は「え、いや、さすがに控えめに言っても、もう少し考えたほうが…?」と思ってしまったのを覚えている。
いやむしろなんでそうなったのかを思わず考えてしまった。確かにベテランの人の説明では、手に持っていたクリップはワイヤーがついていないものだった。この男は「このクリップ」を英語でいうところのtheのように、Aのボックスに入れるだけが今言われた仕事だと思ったんだろうか…?
いや仮にそうだとしても、会場のボードの片づけとして、クリップを外してからは、ボードを解体し片づけることは容易に想像ができるので、Bのクリップも片づけるのが当然と考えるのが普通なのではないのだろうか?そもそもBに手を付けない必要があるのであれば、説明の際にそこは強調されているはずだし、Bのボックスの説明をまずしないはずだろう。よって結局クリップを両方外してください、という指示だったと考えるのが至極全うである。
それとも、Aだけをひたすらとって、すべて取り終えた後に、Bをとるつもりだったのだろうか。効率を考えると、それはナンセンスなのは明らかなのだが…。
とまあ、いろいろ考えてしまいそうになるし、実際考えてしまっていたのだが、おそらく彼は指示の意図を考えたりしながら作業をしていたわけではない、と考えるのが自然だろう。いずれにせよ、絶句するほどに呆れてしまったのは言うまでもない。
さて長くなった。比較対象に、この状態を覚えておいてほしい。
本題のファイリング
並べ替え
今回、このファイリング、大きさの違う5つのものを1つに入れて、ファイルを完成させるものであった。マネージャーは「これを作ります。あとよろしく。私はこちらで切り分けの作業してます。終わったら教えてね。」位な感じで、ほかの作業を行っていた。
今回集まったのは10人ほどで、ちょっと考えて、まずファイリングの際にありふれた、机の上に順番に並べて1つずつ取ってファイル形式にする方法を考え、そのように並べてやってみた。
その際、2部くらいを終えると、この「システム」に何個か問題を発見したようである。このファイルの難所は、紙製のファイルのためスムーズに入れること、ペンをファイルに固定するのが特別時間がかかる作業のようであることが私も感じたし、見ていた感じではほかの人も感じていた。そして作業しながらも会話が始まる。
「『これパンフレットと紙をセットにする人』と『ファイルに入れてペン固定する人』に分けない?」
「確かに。フォード生産方式だよね。」とか言い出す。
また、並び順が左利きのほうが有利に並んでいたのにも気づき、右利きのほうが多かったため順番を左右逆に並べ替えた。(そういえばこの大学はなぜか両利きがやたら多い。かくいう私も球技は主に左だが、箸や鉛筆は右である。ハサミやその他はどっちでも使えるのでどっちで切っているのかはあまり気にしていない。)
さて並べなおしていると、明らかにスピードが上がる。
ただ、各パンフレットは段ボールに小分けされて入っているので、机に積んでいるパンフレットが、ファイルができて減っていくのを、丁度いいタイミングで同じ場所に再度補充する必要もあった。
タイミングよく補充するのを見て、また一人「サプライチェーンマネジメントみたい。」という。サイドプロジェクトや副業を持っている人も結構いるので、そういう視点にもなるんだろう。
また、完成したファイルをうまく部屋の隅に並べていく必要もあった。段ボールに入れる際も、当日渡すことを想定して同じ方向にそろえて入れるという提案も出てそのようにした。
しばらくやっていると、パンフレットと紙がセットになったものの束が余っているのを見てまたひとり
「リミティングファクター(全体の効率を制限している原因)は、ファイルに入れるところみたいだね。」という。
確かにそこを早くすれば、中間生成物がたまることもなく、効率的にファイルが完成する。
「さっきから見ていると、徐々に時間とともに束が増えていっているから、束を作る人からファイリングをする人に1人移ったほうがいいかも」
と”人事異動”が起きた。
とまあ、そういうことを雑談しながらこのファイリングの作業をしていたら、結構楽しかったし、作業も思ったよりも結構早く終わった。
作業が終わってからも「これよりも効率的にやる方法やモデルはあるか?」、「まだ改善要素はあるか?」といった話で盛り上がっていた。
「このシステムが多分最適だと思う。小さい変更はできそうだけど、ドミナント(支配的、要するに全体に大きく影響するかどうか)ではないでしょう。」「腕がつかれるまで早く動かしていたということは、私たちの物理的な能力から考えると、これが最速のはず。」(当然だがこんなことを話し合う義務は全くない。)
という結論に至った。職業病?のようにモデルだとかシステムだとか最適化という単語が出てくる。
ついでに「そこまで完成速度は変わらないかもしれないけど、紙が一番つかみにくかったから、来年は指サックあったほうがいいかも。」などの話も雑談のように、マネージャーへ。これも当然報告義務もない。
「そもそもサステナビリティなんだし、紙の無駄遣いをしないという意味でも、印刷を一切せずに、当日入口にQRコードを張っておいて、必要な人にはダウンロードしてもらうのでいいのでは?」という話まで。「確かにそうだが、そうしたら私たちの作業なくなるよね。」「まあそれはそれいいんではない?唯一の作業もなくなっちゃうけど。」
単調な言ってみればどうでもいい作業も、工夫次第で真剣に話し合えるイベントになるようです。
何をやるかよりも、誰とやるかのほうが重要
上記のファイリングは、ここだけを見るとタダ働きのボランティアでした。しかしながらこれ以外に主だった作業は1年を通してほぼないことから、「学費生活費研究費その他もろもろを入れると時給数百万円のアルバイト」という見方もできるでしょう。今回はこういう見方をすると、単純作業でも、時給数百万円と、時給1000円との間にはやはり差があるようです。
何をやるかよりも、誰とやるかのほうが重要だ、というのは確かに一理ある名言であることを改めて実感してしまいました。
ただの単純作業も、一緒に工夫しながらやると、結構楽しめるイベントととらえることもできそうです。
尚一緒にファイリングの作業をしていた上の発言の人々は、国籍は違えど、全員物理学科の博士課程の学生です。ファイリングが専門な人などはいません。博士課程の特に理学系の人物は専門以外は無能のように言われることも多々ありますが、やはりそこは人それぞれなのでは?と改めて感じる作業となりました。
作業中に上記で触れた派遣のアルバイトのパネルの片づけで呆れたこととの対比を思い出し、「もし彼らとイベント会場のパネルの片づけをやったら、結構楽しいかも。」と頭をよぎったので、こんな形で文章にまとめてみることにした。