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公開日:2018年8月16日
更新日:2019年7月15日
ケンブリッジ大学の卒業式!謎の儀式
先日ケンブリッジ大学を卒業し、Doctor of Philosophy (博士号)を授与されました。なんとも、一言でいえば「わけのわからない経験」だったので、その模様をお届けいたします。
最後の晩餐
卒業式出席前の最後の食事いわゆる最後の晩餐(とか言いながらランチ)。
昼間っからシャンパンやワインを飲みまくるこのランチ。4コース、ワイン数種類の完全にディナー設定。まあ最後だから昼でも豪華にするべきなんですかねぇ。例によってラテン語で挨拶をしている(何を言っているかはわからない)。
Mr.と書かれるのも最後なんだろう、と感慨にふけろう、かと思った。
しかしながら、特に格安航空券を応募する時などには、そもそもDr. を選べるようなことはないので、Mrは全然まだ使う。そして頻繁にMr.と呼ばれるから特にこれは関係ない。ただ、毎日のようにいろんな分野の人たちと、こうやって座って話をする機会は今後減ってしまうのだろうか?と物惜しい気分には少しだけ焦がれた気がした。
上から撮影。思えばこういう写真も何回撮っただろう?
参列
食事のあと、会場のSenate Houseまで凱旋ウォークをする。このため学位が高い順番に博士→修士→学士の順に、参列する。博士号もDoctor of Divinity(神学博士)等の学位はさらに高位扱い。階級大好きなイギリスらしいといえばイギリスらしい。
この参列のまま、カレッジから卒業式儀式の会場であるSenate Houseへと町中を行進する。
大名行列っぽいといえばそうかもしれない。
大学関係者としては見慣れたものだが、観光客がたまたま目撃してしまうと、
「・・・ハリーポッター!?」
と思うのは必至であろう。
近くのスーパーや、観光客にやたら見世物のように写真を取られたり、指をさされたり。中にはCongratulations!と言われることもあった。
Senate House
会場のSenate Houseはケンブリッジの町の中心、観光地の中心に位置している。そこへわらわらと黒いガウンの集団が行列をなして吸い込まれるように入っていく。卒業生のゲストも、同様に入ることができる。
館内は撮影禁止だったので、是非想像してほしい。
会場内では、さらに銀の杖を持ったシニアな方々が、銀の杖を指しながら、学生を順番に並ばせる。
4人で”1行”に並び、中ではその4人の行が、スタックされるように並んでいる。
その並んでいる行列を、係の方々が、服装を直す。フードは色が見えるようにこういう感じに、と、1人1人直してくれる。どんだけ服装チェックするんだ。ちなみに服装が基準に見ていない場合には、卒業が出来ない。と脅しのように、何度も言われ、かつ、資料にも書いてある。
その間にまた他の係の人が、全員の名前の発音を、名簿リストに、赤ペンで訂正を入れながら、聴いて回っている。なんとも入念である。
服装が問題がなさそうになったタイミングで、Senate Houseの自分たちが入場したのではない側の門が開き、4人ほどが入場してくる。
そのうちの1人、カレッジのマスターや学長クラスの先生(ここでは、以後「マスター」としておこう)が、中央に据えられたなんとも手入れされた高そうな仰々しい椅子(以後「玉座」とする。)に座る。
日付と、カレッジ名が何やらラテン語で読み上げられる。
まず4人が呼ばれ、引率の司祭の方の親指以外の4本の指のうち1本を握る。この際、4人の腕はクロスしないようにする。
指を握っている間に、引率の方、10秒ほど何かを言う。ラテン語で。
その後その4人のうちの1人ずつが、玉座の椅子の前に呼ばれる。これは名前と何かのラテン語のセンテンス。
名前を呼ばれた人は、玉座の前の、ちょっとペルシャじゅうたんでできた枕のような足置きに、膝を載せて膝立ちする。
手を合わせて、玉座の前に出す。その手を、マスターにおおわれるようにして、つかまれる。
マスターが何やらラテン語で声を上げる。「※^&*(ドクトーラ_@#^%」。
その後軽く会釈し、玉座左後方にある出口から外へ出る。その際に学位記を受け取る。
この際、私は、絶対に何かやってやろう。とたくらんでいた。
激しいことをやって学位はく奪になっても困るので、ちょっとだけいたずらのような感じだ。
私の場合は、司祭の人差し指を握っていた際に、その指をずっと、親指でこすってみた。彼の口元がピクっとしていた。彼も取り乱すわけにはいかないだろう。ただ目があったが、私も少しだけ口角を上げてやった。
さて、自分の番である。これは意図的ではないが、ガウンで少し滑ったのちに、膝たちをした。
その後、手を構えたが、一瞬躊躇し、「あ、ちょっと。」と言って、両手で擦るように手を拭くようにしてから差し出した。
マスター「※^&*(ドクトーラ_@#^%」。
その後、超小声で”Congratulations!(おめでとう!)”とおっしゃっていた。私も”Thanks!”とひそひそ声で伝えたのちに、会釈し、その場を去った。
私の時のマスターは、エマニュエルカレッジのマスターの女性であった。なんとも可愛らしいおばあさんである。最近思うことだが、人相というのは、一瞬で見て、本当に顔と雰囲気に出るようである。リンカーンの「40歳になったら顔に責任を持て」はまさしく正しいと思う今日この頃である。
学位記を受け取り、Senate Houseを後にした。
その後は中庭で、記念撮影大会である。思い思いに写真を撮っている卒業生であふれかえっていた。
卒業式ビジネス
記念写真
上で「卒業式は撮影禁止」といった。代わりに、ディズニーランドのスプラッシュマウンテンや、海の方のタワーオブテラー並みのデジカメ撮影版の写真を外で「販売」している。あえて撮影禁止にして、販売している。大事なことなので二度言及した。太字にもしておいた。さらに紙のフレームでおおわれているとはいえ、デジカメ印刷写真である。(画質と角度は良い。)
いくらだろうか?
1000円位?いやいや。1枚20ポンド。約3000円である。
そしてほとんどの人が購入している。たいしたものである。結婚式の費用がかさむのと同じあれだろう。なんとも抜け目ない。
私も例にもれず買ってしまったのは言うまでもない。
さて、先ほどの光景はうまく想像できただろうか?小説の実写版で「その通り!」と思うときと「想像していたのと違う」と感じるのは常である。
今回の卒業式に関する答え合わせはこんな感じである。
意外と想像通りであっただろうか?
なおこの建物は、他のイベントにもよく使われている。
学位フレーム
さらに、学位記。一般的に日本では立派なケース・フレームに入っていることが多いだろう。
しかし、ケンブリッジ大学、紙ぺら1枚を、文房具屋で10枚100円とかのレベルのクリアファイルに入れられて渡されます。
紙ぺら一枚を、文房具屋で10枚100円とかのレベルのクリアファイルに入れられて渡されます。
大事なこと過ぎて、一字一句同じで、さらにコピペして、さらに太字にしてしまうほどである。
学位記のフレームは、大きさで30ポンドと50ポンド。大きいほうはもはや、持ち込みスーツケース最大サイズのレベル。
安い方と言っても、5000円近くするではないか。
さらにこのフレーム、ケンブリッジ大学版と、カレッジ版が分かれている。
ケンブリッジ大学版はUniversity of Cambridgeとしか書かれていない。一方で、カレッジ版には、University of Cambridge – 〇〇 College と書かれていてエンブレムも大学のものとカレッジの物が両方掲載されている。
こうなると後者のものを買う人が多くなる。大学が抜け目ないと、カレッジも抜け目ない。
そもそもの服装
そもそも、卒業式に参列するための服装もまた、お金がかかっている。ガウンは自前だが、それ以外にもホワイトタイ、バンド、フードが必要。ついでにボネットという帽子も借りることができる。これらを借りるだけでまた30ポンドである。
注意書きはなかったが、ボネットは、卒業式の儀式中には被ってはいけない。いや、意味わからんのだが、理由は伝統的にダメだということだ。この伝統といえば何でもいいようになっているとすら考えられるこのシステム。なんなんだろうか。
しかし、借りてしまって、そのまま何もせずに帰すわけにはいかない。
近くのCamRiverとBridgeがある橋の上で、フル装備で記念撮影をした。Cam+BridgeでCambridgeというのはよく知られたところである。
しかしこれ、どこかで見たような?こちらではないだろうか?
ゲーテ。Wikipedia。
ジーザスホース
ジーザスカレッジには、第一コートにシンボルの馬の銅像が立っている。
(校章は鶏である。なんで馬がシンボルなのかはよくわからない。何かのイベントで建てたら奇麗だったからそのまま立て続けている、というのはどこかで聞いたような気がするが、定かではない。)
しかしこの第一コート、通常は芝生の上を歩いてはいけない決まりになっている。(なぜだかは知らない)
ただ、卒業式の日に限り、その芝生の上に立つことを許される。
よって、この馬に触ることができる唯一の機会である。しかしまあ、普通に撮影するだけではつまらない事極まりない。
馬にヘッドロックをかけることを試みた。
しかし、この馬の首は相当に太く、手が回らなかった。
よってこのようにした。
…前側から首を絞めようとしてみた。
長い歴史の中でも、ジーザスホース(神様の馬)の首を絞めようと試みた人は、おそらく初めてではないだろうか?
…ジーザスさん、冗談であるとわかってほしい。
その後、数回ほど頭を下げておいたのは言うまでもない。
儀式後
儀式後は、特に何があるというわけでもなく、各自解散である。日本のように、礼に始まり礼に終わる感じではない。アメリカの卒業式のように著名人によるスピーチもない。服装もすぐに解いて、専門店へ返却する。後は個人個人で、食事をしているなどが大半だろう。
総じてなかなか経験しないであろう体験であった。ここへ抜け目なくいろいろと課金システムを作ってくる大学もさすがなものであった。