目次
公開日:2015年12月23日
更新日:2019年7月20日
はじめに
「物理って面白そうだけど、数学とか計算が嫌い」と言っている人に朗報です。文系学生向けに授業を担当している物理学の大学教員が、数式を一切使わずに物理の本質を説明する本が出版されました。
宇宙を動かす力は何か-日常から見る物理の話- 松浦壮
- 作者: 松浦壮
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2015/11/13
- メディア: 新書
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本書は慶應義塾大学の素粒子物理学者で、文系の一般教養の物理学の講義・実験を担当している松浦壮さんが執筆した物理の初心者どころか入門以前の一般向けの本です。
題材としては物理学に分類される中でも、専門の素粒子物理学と特に関係が深い力学と相対論を題材にしていますが、全体を通して、本書では「無色化」とたとえられている物事の本質、「物事の理(ことわり)」をとらえる技術の重要性について述べられている印象です。
普段から「ていうか物理とか、無理!数式見たら吐き気がする!」などと言っていそうな社会科学系専攻の学部1・2年生を相手にしているせいか、説明が非常に丁寧な内容になっています。AKBの選挙やディズニーランドのスターツアーズなどの物理など、読み手の目に留まる表現も多く用いられ、読み手への気遣いもうかがえます。
松浦壮さんについて
実はこの松浦壮先生のもとで文系学生向けの物理学の授業でTAを担当させていただいておりました。大学では、(少なくとも慶應では)一般教養の科目は総じてやる気がない先生が多い中、この本の著者である先生は非常にやる気に満ちています。実際文系学部の物理学の授業は、履修システムの関係もあって、単位にしか興味がない人がかなりを占めているので、その中でも情熱に満ちた授業を展開されています。このこともあってか、授業の人気も高く、受講者の選抜まで行われています。
先生の書籍の自己紹介では「素粒子物理学の研究の傍らで文系の学生への教養の物理学の授業を行っている」と書かれていますが、私の印象ではむしろ「文系学生への教養の物理学の授業の傍らで素粒子の研究をしている」という感じすらするくらい「副業」にも力を入れられている様子です。
日吉駅にある「いろり屋金魚」という日本酒の品ぞろえが豊富な居酒屋で、忘年会を行った際に直筆のサインを頂きました!
この居酒屋は日吉で一番日本酒の品ぞろえが多いらしい。確かに多かった。(ただ筆者はお酒がそんなに強くないことと、時差ボケもあってそんなにのめはしなかったけども。。)
サインが筆ペン!でもサイン自体はアルファベット!説明は日本語。なんとも味のある字ですね。
数式一切なしと言っているものの…
少々ネタではありますが、いわゆる物理学の世界で「一切なし」といった場合、どんな例外も含まず、「全くない」ことを指します。
ここで数式の意味を調べてみましょう。
数式(すうしき、mathematical expression, mathematical formula)は、数・演算記号・不定元などの数学的な文字・記号(および約物)が一定の規則にのっとって結合された、文字列である。
ということで、数は、例えば数字や文字、1とかmとか。
演算記号は例えば+・-×÷など。
不定元は、Σなど。
それらが結合された文字列を数式と呼ぶそうです。
ということで、本の中に出てくる、
「1+1」「5+3」「F=ma」「a=F/m」「E=mc^2」はすべて数式ということになります。ということで残念ながら「数式一切なし」というわけにはいきません。
しかしながら、数式は出ては来るものの、「理工系の教科書のように、数式を展開して論ずることは全くない」です。ガリレオ先生みたいに壁に一心不乱に計算を始めるような感じではありません。シンボルとして文中に出てくるだけなので、心配は不要です。
残念ながらKindle版はまだありませんが、すぐに発売されるようになるんじゃないですかね???
物事の本質をとらえる重要性
本書では物事の本質をとらえることが重要であることを事象の「無色化」と表現されています。
この物事の本質と物理学については、現在PaypalやSpaceXなどの多方面で活躍するイーロンマスク氏もTED.comに登壇し本書と共通の視点を展開しています。
物理学です。原理と推論、つまり物事を本質的な真理まで煮詰め、そこから推論するということです。アナロジーで推論するというのでなく、我々は生きていく上でアナロジーによる推論をしています。これは本質的には人のしていることを真似て少しだけ変えるということです。それは必要なことです。そうしなければ、日常生活も精神的に困難になります。しかし、何か新しいことをしようという時は物理学のアプローチを使う必要があります。物理というのは、量子力学のような直感に反する新しいものを見つける方法なんです。だからそのようにするのが重要だと思っています。またネガティブなフィードバックに注意を払うことも重要です。特に友人に意見を求めることが大切です。シンプルなアドバイスに聞こえるかもしれませんが、ほとんど誰もやっていないことで、凄く力になるんです。
この点から考えても、本書および講義で行われている「無色化」の技術を習得することはビジネスなどにも有効であるといえるでしょう。
営業活動
先生はこの出版をきっかけに新たな「副業」にも取り組まれている様子です。というのは、先生は現在書店向けの宣伝ポップを自作し、積極的に書店にも売り込みに行っているようです。
最初はポップは活字だったようですが、本人は「本屋は活字ばっかりだから直筆のほうが目立つはず」という仮説の基づき、手書き版を作成されていました。
手書き版。確かに活字の中に手書きがあると目立つ。
個人的にはそのうち「物理学者が考える書籍マーケティングの理」などといった題名でまた出版されることを期待しています。
終わりに
総じて「物理には興味あるけど、数学は嫌い」と言っている層が特に効果が高いように思います。現在高校生で数式のせいで物理が嫌になっている人、または難しそうだからと敬遠している人には特におすすめです。
それ以上の方々でも、物事を理論的に考え、本質をとらえる方法を学ぶきっかけには、もってこいの内容になっています。
推薦図書などに指定し、中学・高校生で「うわ、物理嫌い」と思ってる人が読めば、日本の物理を好きになる人口が大幅に増え、理論的に物事を考え、本質をつかむ人物が増え、ひいては日本の国力の増強につながるかもしれません。
- 作者: 松浦壮
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2015/11/13
- メディア: 新書
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※念のため一応断っておきますが、強制されて、この記事を書いているわけではありません。心からおすすめの一冊です。