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公開日:2015年4月22日
更新日:2021年8月14日
留学に向けた給付型奨学金事情についてお伝えします。私が経験を通して分かるのは、日本の理工系の大学の修士課程を修了して大学院博士課程に正規で進学する場合です。現在おかれている立場や所属、各課程や財団ごと等、方針や毛色が違うと思いますが、役に立つ部分もあるかと思います。
概要
留学にはお金がかかる。それは事実です。しかし借金や自分の財産を減らさなくて良い方法があります。
方法は現在の所属や状況によっても様々です。例えば所属している企業が社費派遣を行っている場合は、その制度を利用する方法がノウハウも蓄積されている可能性が高く、効率も良いでしょう。また一部の国家公務員の方は官費による派遣制度などもあることでしょう。
しかし日本の高校や大学を卒業して直接海外の機関に入学する場合には厳しいのが現状です。それらの方を主な対象として特に手っ取り早いものが給付型奨学金です。
まず海外の機関からの奨学金(フェローシップ)はどうでしょうか?おそらく世界中に数多く存在します。このため理論的には可能であるように思われます。
しかしこれはスポーツでたとえると、いきなりオリンピックや世界選手権で入賞を狙いに行くようなものです。各国の奨学金などを既に受賞している人たちで溢れています。フェローシップと比較すると、大学院におけるTAやRAなどの雇用を基にした方法では、難易度は下がるものの、依然としてまだ世界大会であることは変わりありません。世界選手権と日本選手権では、どちらのほうが比較的難易度が低いかは想像に難くないかと思います。(場合によっては例えば資金が付きやすい分野などでは、各国のRAやTAよりも国内の奨学金ほうが難易度も高いようですが、一般的なたとえとして。)
よって今回は日本国内の財団等からの奨学金に注目します。昨今の留学ブームも反映して、各財団が返済不要の奨学金を募集しています。
例えば以下で一覧を確認できます。
財団により、国や分野、コースまで様々です。これにより出願できる奨学金の選択肢はかなり狭まります。逆に言えば、仮に狭い分野への募集に自分が出願できる場合は、競争相手が減ることで、自分が採用される可能性も上がります。A代表よりもU23やU19代表など条件付代表のほうが敷居が低いのも明らかでしょう。
また留学奨学金に関する書籍も多数出版されております。全く同じようなコンセプトの書籍もありました。
学費免除・奨学金で行く大学・大学院進学・休学・留学ガイド―学費ゼロでも大学で勉強できる道
- 作者: 笠木恵司
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
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応募について
応募の際には「募集要項」をよく読んで出願されることをおすすめします。よく読んでというのは、字面を追って内容を確認するだけではなく、その財団が何を求めているかを予測するという意味です。
よく調べることにより、資金の出所はどこか、審査員はどのような人か、過去の人はどのような状況か、などで、募集要項には直接書いていない事柄まで、おおまかな予測は立てられるかと思います。
例えば、出願例がある場合は
「この通りの順番で図やタイムラインなどを使ってわかりやすく記述し出しなさい」
という募集者の意図が読めます。順番を厳守し、図やタイムラインを使って記述しましょう。
帰国後にニュースレターなどへのレポートを提出することが強調されている場合は、おそらく前年までにレポートの提出をしなかったの採用者がいた、または文章のクオリティが著しく低いものがあり、困惑した可能性などが考えられます。
もし仮に以前までに真剣に寄稿文を書いた経験がある場合は、参考資料として寄稿文章を提出すること(=これくらいのものは書ける、かつ提出できると証明すること)も効果があるかもしれません。
その上で、自分を採用することにより、財団側にどのようなメリットがあるかを考えるのが重要では無いでしょうか。
敵を知り己を知れば百戦危うからず
とは正にこのことでしょうか。
奨学金の採用は、就職活動とは異なるため、出身大学を指定している、つまり「学歴フィルタ」を明示している財団が多数存在します。この場合は試してみる価値もあるかとは思いますが、おそらく該当大学以外からの応募はどうにもならないと思います。「学歴フィルタ」の存在を公表し、無駄に終わる出願の手間を省かせてくれる財団側の親切心だと思い、他の候補に集中したほうが有効かと思います。
採用されるには何をすればいいか?
具体的な話に移ります。私が経験を通して分かる、理工系の大学院博士課程に正規で進学する場合について説明します。
説明の簡単のため、奨学金に関する留学生、奨学財団、受け入れ先大学の動機とメリットをまとめます。
留学生本人
- 経済的な負担がない方がいい、または負担がある場合は進学不可能になる
- 奨学金を採用されることによって表彰された実績が増え、場合によっては大学院に合格しやすくなる
奨学財団
- 実績になる=世界的に名の知れた、ここに進学した学生を私たちが支援(=投資)しているという実績になる進学先を稼ぎたい
- 将来的に成果を挙げそうな学生に投資したい
- 入学できる可能性が高い学生を取りたい
大学側・研究室・指導教官など受け入れ側
- 出来る役に立つ、いわゆる優秀な学生を取りたい
- 出来れば無料で、研究予算を節約して取りたい
まず、留学生本人が奨学金を受けて留学をしたいと思うのは、奨学金へ応募をしている時点で明らかであり、他の候補生も概ね同様であると考えられるため、いくら「頑張ります!」と熱意だけを示したとしても、客観的な差別化は厳しいのが現状です。またいかに自分が優秀であるかを語られるのも、財団側は慣れているでしょう。もしかしたら聞き飽きているかもしれません。
留学生本人が財政支援を受けたいのはもちろんのこと、奨学金に採用されることで、日本国内でも優秀であるという証明になるというメリットもあります。以下抜粋です。詳細は以下記事を参照ください。
留学応募に際して、日本からの奨学金をとっておくことが、どのくらい有利であるかについて考えてみます。
日本からのスカラシップがあると、合格判定にも有利なようです。スカラシップをとったということが、優秀な学生であるという証明にもなるということです。
http://takashimasuda.blog.fc2.com/blog-entry-3.html
また、奨学財団側は、多かれ少なかれ実績を稼がなければなりません。実績が悪いと事業自体が打ち切りとなる可能性も上がりかねません。
審査員目線で考えると、応募者が多い場合には、選考プロセスの簡単化のため、まずスコアによる足切りをすることが予想されます。場合によっては上記学歴フィルタも考えられます。客観的に数値化できる大学の成績やテストスコアはできるだけ高く保つ必要があります。そもそもスコアが一定以上ないと大学院自体の合格が厳しいかと思われます。スコアは印象全体に影響するので、やはり高いほうがいいでしょう。
奨学金を運営する視点から考えると、事業の年間予算などの関係で一番の問題は、採用した学生が志望する大学に不合格になり行く先がなくなるなり、投資するに投資できないことです。繰り上げ採用等もありますが、補欠の学生が繰上げの際には既に他財団に取られているなどの可能性も考えられるので、初めに採用した学生全員が合格してくれる方が都合がよいでしょう。
一般的に海外、特に欧米の大学は日本のように試験一発で決まるわけではなく、大学側がかなり不透明な審査をしているため、いくら実績があって奨学財団側から見て優秀であっても、大学側から落とされたのであっては元も子もありません。
よって採用されるには、相対的に投資価値が高い学生(=確実に実績が稼げる可能性が高い学生)であると奨学財団に判断される必要があります。
どれに出願すればいいか?
さて、給付型にもさまざまな形式があります。女性専用、ある地方出身など。結論は、「条件が合うものは全部出せ。」です。奨学金出願を投資として考えた場合はそれが最もいいことがわかります。詳しくはこちら。
【給付・返済不要・免除】どの留学向け奨学金に申し込むか?投資として考える【高校・大学・大学院】
具体的な効果的な方法
上記のように採用されるには、相対的に投資価値が高い学生(=確実に実績が稼げる学生)であると奨学財団に判断される必要があります。
効果的な方法のひとつとして受け入れを希望している教授から「この学生は優秀でうちで取りたいから」という内容が伝わるような推薦状を財団に提出するのは有効であると考えています。
また、奨学金の選考前に大学から正式な合格が出た場合は、合格証を参考資料として送る、面接時に持参するなどでもよいかもしれません。特に採用者が数人以上の場合は、採用枠を確実に埋める「安全牌」としても採用される可能性も高まります。
ここで、「受け入れ先の教授が推薦状を書いてくれるのか?」という疑問があるかと思いますが、おそらくこれは問題無いと思います。
たったA4で1枚ほどの推薦状を送るだけで、数年間の無料の労働力(=留学生)と数千万円の研究費(=留学生の奨学金)が高確率で獲得できる機会だと思えば、コストパフォーマンスの良い仕事だと判断する人は多いのではないでしょうか。少なくとも詳細な推薦状ではなくとも、一筆いただける可能性は高いかと思います。
この方法を実行するには、前提として最低限受け入れ予定の先生に事前に連絡が取れ、かつ「この学生は取りたい」と思われている必要があります。
現在ネットワークの強い研究室に在籍しており、海外の希望先の研究室間でつながっている場合は、そのツテで連絡を取るのが一番容易だとは思います。出来れば一度出向いて話をしたり一緒に働くことがより効果的です。
しかし、ツテが無い場合には個人的にウェブページや論文を読んでメールを送るなどのも効果があります。私自身も全くツテがありませんでしたが、事前にメールを送り、連絡を取り合うようになり、その先生も出席する国際会議で、私も発表をし実際にアポを取り話しました。実際に話した際に好印象を持っていただき、夏に数ヶ月インターンシップとしてその先生のもとで共に働きました。
大学院訪問の際に返信が来るコンタクト/メールの書き方/件名【教授/留学/出願/準備】
ただし「この学生は良い」と思ってもらえるよう実力を示すには、そもそもある程度の実力が備わっていないとどうにもなりません。常日頃から能力の向上に努めておくことは大前提です。財団側に示すメリットとしても、日頃から様々なスキル、いわゆる「手持ちのカード」を増やしておく必要もあります。
少なくとも私はこの方法で日本国内のいくつかの財団から採用通知をいただきました。
ただ、それでも合格証自体を疑われたり、ネットワークの取り方について自分で交渉した経緯を述べても信じてもらえなかったり、多少生意気だなどと思われたり?などして落とされたりもしましたが・・・。
尚、大学自体は名門ではないが、世界的に有力な教授がいて、その先生のグループに入りたいという状況は往々にしてあると思います。しかし一般的に奨学財団が公表している実績は、大学名までに止まることが多く、世間からの評価を考えた際に、狭い専門業界にしか通用しない研究のみによる評価軸は、一般的に受け入れられ辛くなることが予想されます。よって不可能ではないと思いますが、説得には比較的困難を要することになると予想されます。
長期留学以外にも効果的
留学奨学金以外のプログラムにも同様の方法は有効でした。
まず上記の国際会議用の研究助成を獲得し、資金援助を受けて国際学会に参加しました。その申請の際には、分野で最大級の国際会議に口頭発表者として採択されたアブストラクトを添付しました。実績として考えた場合に、参加会議は規模が大きいほうが見栄えがよく、発表方法は、口頭発表の方が、ポスター発表よりも価値が高いとされています。
この場合は、上記のメリットを考えると、私は支援を受け国際会議へ参加でき、出資側は分野で最大級の国際会議での口頭発表という実績を積むことができました。強いて言えば国際会議開催側は参加者数を稼げました。
また、国際会議はボストンで行われていたため、進学こそしなかったものの、あらかじめ連絡を取っていた大学の先生と面接を行うこともできました。
夏期インターンシップは、日本学術振興会の若手研究者インターナショナル・トレーニング・プログラム(ITP)−日本学術振興会という海外の協定機関に派遣するプログラムを利用しました。
当時はケンブリッジ大学は協定機関にはありませんでしたが、協定機関に追加していただけるように担当者と事前に話をし、協定機関に追加していただきました。(協定機関は相談に応じて追加可能と日本学術振興会ページに記述を発見しました。)
協定機関となった後に応募し、派遣学生としての助成金を獲得し、インターンシップ生として派遣されました。
この場合、私は資金援助を受けインターンシップができ、派遣側はケンブリッジ大学への派遣実績がつき、派遣先の研究グループは無料で私を試用期間として受け入れることができました。
外国政府の奨学金にも有効でした。
日本の大学とイギリスの大学ではアカデミックイヤーの開始時期が違うため、卒業後に数ヶ月空きがありました。
私は英語圏への進学が決まっていたため、英語圏以外に行って経験を積んでみようと思い、紆余曲折あった後にドイツの大学の研究グループに決めました。派遣先は哲学者ニーチェの母校でもあるボン大学(Universität Bonn)です。(またピアノをやっていた私としてはベートーベンの故郷でもあるボン自体に興味がありました。)
このグループ先生とは全く面識がありませんでした。しかしドイツ人を対象としたインターン生を受け入れているグループであったため、資金さえどうにかすれば融通が利くのではないか?と思い簡単な研究計画と共に連絡をしたところ、予想が的中し、好意的な返事が返ってきました。
その後は上記と同様に「一筆受け入れる旨を書いていただけたら、無料で働きにいける可能性が高くなるのですが、お願いできませんか。」と一筆をお願いした甲斐もあって、ドイツ政府の留学奨学金であるドイツ学術交流会(DAAD)の派遣奨学金を獲得し、数ヶ月ドイツに滞在しました。
この場合も、私は資金援助を受けドイツへ留学でき(休日にはドイツ観光もでき)、DAADは確実に実績を稼ぐことができ、ボン大学は無料のインターン学生を取ることができました。
さらにDAADはドイツ人にはかなり権威のある組織らしく、ドイツ人に何かの折にDAADの元奨学生だと伝わると、勝手に優秀だと思い込んでくれるという特典もつきました。DAADの元奨学生という人物も多くいるため、話の種としても上手く機能しています。
多くの場合、とりあえず奨学金の枠組みを用意したものの、詳細は決めていない、または聞いてみると実際は細かい部分は変更可能である場合が往々にしてあります。特に事業を開始したばかりの組織では大いにありえます。財団側のメリットを考えつつ、自分を採用することがどう財団にとってプラスになるかを考えることが採用確率の向上につながるのではないでしょうか。
「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」にも有効?
近年話題になっている「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」にも有効かどうかを考えてみました。
以下は私は出願資格もなく、関わってもいないため資料をぱっと見た感じの予想です。
本プログラムをはじめとした審査人数、採用人数ともに多く、審査会が複数にわたる場合は、おそらく選考マニュアルが存在し、その中に候補者の書類と面接の結果を一定の項目ごとに点数化をしていることが予想されます。
こういった場合では、受け入れ先からの推薦状が、奨学金の採択可否に決定的に効く可能性は比較的低くなるかと思います。それでも推薦状や合格証があることで、応募書類全体の印象が良くなるほか、実現可能性や具体性などの部分での加点に繋がるのではないでしょうか。
現に昨年の採用例で、「受け入れ先からの許可済み」という記述が目立ちます。
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/graduate/0325setumei.pdf
金銭面以外の特典について
上記はずっと金銭面についての説明をしてきました。しかし金銭以外にも重要なことがあります。こちらにまとめました。
大学/留学/返済不要給付奨学金の金銭よりも重要な価値について思うこと
おわりに
総じて上手く物事を運ぶコツは「相手の立場に立ってうまく物事を考えられるか」に尽きるかと思います。自分の希望を通そうと主張するよりも、客観的に判断して、相手側が私を取れば明らかに得をし、もし取らないと損をする、もはや採用しない理由が見当たらない、と自然に判断してもらえるように持っていくのが結果的に一番効果的であるように思います。
メリットを明確に示せるようにするためにも、日頃から実力をつけ、「手持ちカードの数と質」を高めておくことも極めて重要だと思います。
実は私は学部からのアメリカ大学院への出願と、修士から博士課程への出願と、2回出願を行っています。
学部生でアメリカの大学院へ出願する際は、
「日本からの給付奨学金には天才的な実力の持ち主しか通らない」
と勝手に思いこんでいたため、出願しませんでした。
結果として当時はリーマンショック直後の影響もあってか、コース自体からの合格こそもらったものの、TAやRA等も含め奨学金が一切付きませんでした。アメリカの私立大学は私費では到底不可能なので、辞退し進学をあきらめました。
当時は、奨学金に応募していなかったことを非常に後悔しました。(ただ奨学金に出願していたからといって採択されていたとは限りませんが・・・。)
意外と天才じゃなくても通るので、ダメもとだと思っていても、条件が合うものは全て、「募集要項」をよく読んで、出願することをお勧めします。
まとめ
- 返済不要の留学奨学金は多数存在する
- 募集要項をよく読んで出願するほうが採用確率が上がる
- 相対的に投資価値が高い学生(=確実に実績が稼げる学生)と判断されるように準備する
- 相手の立場に立って考え、採用しない理由が見当たらないと判断されるようにする